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クッツェーの「恥辱」



タイトルが際どい感じがしますが、史上初めてブッカー賞を二度にわたって受賞した文豪・J.クッツェーのブッカー賞受賞作です。てか、ブッカー賞ってご存知ですか??英語で書かれた小説のみに与えられる賞という制限があるため、日本人作家には縁がない賞ですが、世界的な賞の一つだそうです。(映画のアカデミー賞みたいなもんか。)
このクッツェーは、南アフリカの作家。後にノーベル文学賞も受賞しています。


主人公ラウリーは52歳の大学教授。自らの頭脳と肉体に自信を持ち、何の不自由もない生活を送っていたはずが、あるとき学生を追い回し、そして関係をもってしまう。そしてそれがセクハラ問題として表面化、辞職に追い込まれます。前妻との間に出来た娘の営む農園に身を寄せるも、強盗事件が更なる追い討ちをかけ・・・。



崩壊

長身で体格よく、この明るい褐色の肌になめらかな髪があれば、あるいていどの”磁力”はいつでも当てにできた。どんなふうに、どんな目で語りながら女を見れば、むこうが見つめかえしてくるか、それには自信があった。そうやって生きてきたのだ。何年、何十年と、それが生活のバックボーンだった。
・・・・・
ところが、ある日、すべてが終わりを告げた。なんの前ぶれもなく、その”力”が失せた。
( ― 「恥辱」(J. M. クッツェー、訳:鴻巣 友季子、2000年))

能力に恵まれ、インテリという狭い世界で狭い価値観を持って生きてきた男は、変わらぬ環境に生きる。だから、自分の変化に気づかない。そしてついに、「なんの前ぶれもなく」次から次へと課題に直面するようになり、噛み合わない議論と自問自答を繰り返していくのです。


ここで見られるのは数々の「断絶」。
安定から窮地へ。
白人と、黒人。
前妻の考えと、教授の考え。
教授の価値観と、娘の価値観。
そして何より、男を襲う惨劇と、それを突き放したような、冷めた文体。



老いということ


毎分毎秒、年をとっていることは誰もが知っています。でも、それを感じる瞬間は、人にとっていつも突然。この描写なんて、まさに白眉です。
老人になるとはどういうことか、その味を初めて知った。体の芯まで疲れきり、希望も欲望もなく、将来に興味がわかない。ビニール椅子に身をしずめ、ニワトリの羽と腐りかけたリンゴの悪臭漂うなかにいると、自分の内から世の中への関心が一滴また一滴と洩れだしていくのを感じる。


そして、前妻との会話。
「あなたはもう ― 五十二?そんな歳の男とベッドをともにして若い子が歓ぶとでも思うの?女の子が眺めて楽しんでいるとでも思う、あなたの、その…最中を?そういうこと、考えたことはあるの?」
「私の同情は期待しないことね、デヴィッド。」…
むかしの口調が顔をのぞかせている。結婚生活の終わりごろよく聞いていた声。熱っぽいお咎め。…
たしかに若い娘には、じいさんの悶絶する光景から目を保護する権利がある。そのために娼婦がいるんじゃないか、要は。醜い生き物の恍惚に我慢してつきあってやるために。




不条理、だからこそ


確かにラウリーを襲った数々の事件は悲劇だった、けど、徹底的に客観的な文体や、彼とあまりにも違う価値観の人たちとの会話のうちに、それが当たり前なのではないか、それが彼にとって分相応なのではないか、うんと悪い言葉で言うならば「ざまあみろ」で捉えられるものではないか、と、暗澹とした気分にさせられます。


噛み合わない議論を通じて少しずつ悟っていく過程、それが「恥辱」。己の現実を見つめ、分相応を知っていくこと、それが「恥辱」。だからこそ逆に、そこにほのかな光が差し込んでいるように思えたり。ただただ、作者に敬服です。
「ええ、そのとおり、屈辱よ。でも、再出発するにはいい地点かもしれない。受け入れていかなくてはならないものなのよ、きっと。最下段からのスタート。無一文で。それどころか丸裸で。持てるものもなく。持ち札も。武器も、土地も、権利も、尊厳もなくして」
「犬のように」
「ええ、犬のように」




アフリカ文学??興味ないし。なんて言わせません。

いつの間にやら文庫にもなったようですね。
どん底に堕ちたい人、どうぞ。
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【2007/10/25 19:14】 読書 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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